熊本の離島記

the Records of Island Visits in Kumamoto

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横浦島 Yokourajima

 熊本県南西部の天草地方には、天草上島・下島をはじめとして、実に多くの島々が近接し合って存在しますが、そこは天下の土建国家のすること、これらは現在ほとんどが橋でもってつながれており、車で自由に行き来することができるようになっています。
 そんな中、地図をみていて気がつきました。天草では北方の、やや外れたところにある湯島という島を除けば、御所浦島、牧島、横浦島という3つの島だけが、有人島としては九州本土まで行き着ける橋のネットワークにつながっていないのです。御所浦は、化石が出ることで有名で時々話題に上る島でありますが、橋づたいには行けないところに位置していたようです。ただ、御所浦島と牧島との間には橋がかけられており、外界のネットワークとは途絶してはいるものの、純粋に全く橋のかかっていないという島は横浦島だけなのですが。この3つの島は、3島だけで御所浦町という自治体を形成しています。
 「橋でつながっていないこと」に興味を引かれた私は、まだまだ残暑の厳しい2007年9月、横浦島を訪ねることとしました。
 朝早くからJ○を乗り継いで、博多駅から熊本駅、さらに三角駅へ。三角港を午前9時10分発の船に乗り、横浦へと向かいます。船は、まるで漁船と見間違うような極めて小さなもので、とても渡船とは思えない大きさのものでした。よく晴れた日、右手に大矢野島、やがて天草上島を見ながら、波静かな八代海を、小さな船はすべるように進んでいきます。途中、いくつかの島に寄り、少しずつ乗客が乗り降りしました。島々の人たちにとって、船は地域の重要な足のようです。途中、常に島影が近くに見えるため、外洋にいるといった感覚はまったくありませんでした。こうして1時間半かけ、船は御所浦港に寄港。そしてその5分後、横浦の桟橋へと到着しました。
 桟橋から少し歩いたところに、きょう宿泊することになっている「み○き苑」という民宿を見つけ出し、荷物の一部を置かせてもらってから、周囲5.3kmのこの島の1周にかかります。反時計回りに歩き始めましたが、右手には橋でつながれた御所浦島と牧島とが間近に見え、間にある海には小船が行きかっているのが散見されました。沖には、数人の観光客を乗せた小船も停泊しており、地元の漁師さんのような人がなにやら解説をしているようでした。こういう風景を見ていると、横浦は天草の離れ小島には違いないのですが、孤立感というものは全く感じられません。こういう中を20分あまり歩いたところで、この島のもう1つの集落・与一ヶ浦に到着しました。
 集落の規模は、私が船で着いた集落・横浦と同程度といいますが、港は横浦よりも大きい感じで、フェリーも停泊しています。天気のいい日、集落の家々では、ふとんや座布団とともに、この島で栽培しているのか、赤とうがらしをを干している光景も見られました。港には簡単な公園が造られており、そこの休憩所に腰掛けてちょっと休むことにします。左手を見てみますと、波止場の先の方に、小さなほこらがあるのが目に入りました。
 「あ、これが『えべっさん』か」
 「えべっさん」とは「恵比寿様」のことで、御所浦町では豊漁と安全を祈願してまつられていると聞いています。特にこの横浦島には、アコウの木の根元、あるいは家々の門の前などに、たくさんあるという話でした。しかし、横浦の集落で宿にたどりつき、さらにこの与一ヶ浦の集落まで歩いてくる途中、それらしいものは私の目に留まりませんでした。この漁港の小さなほこらにあるものが、最初に目にする「えべっさん」です。
 「どうやら1つ見つけられたな」
 桃色のタイを横に従え、にこやかな笑顔をたたえた彩色のない石造りの1体。とりあえず、こいつを写真に収めました。
 与一ヶ浦の家々を見渡してみますが、ほかに「えべっさん」らしきものは見当たりませんでした。横浦島もすでに半周したというのに、この島に多いという話だったのに、あまり見つかりません。ちょっと物足りなさを覚えつつ、与一ヶ浦の港を離れ、さらに歩みを進めました。
 しばらくは人家の見えない区間で、その後ちょうどこの日が運動会で、にぎやかな歓声が響いていた島の小中学校を過ぎると、ぽつぽつとまた道沿い左手に住宅が現れ始めました。どうやら、横浦の集落へと戻ってきたようです。1周するのに要したのは1時間程度でしょうか。小さな島です。
 「もう戻ってきたか……もう少し歩いた先に、横浦の桟橋があるだろう」
 そう思いながら、何となく道沿いの住宅のほうに目をやりました。
 「おや、『えべっさん』だ」。
 目に留まりました。軒先に、ちょこんと鎮座しています。高さ20cmほどの、小さな石造りの像。割と目立つ色で塗られています。
 「ようやく、軒先にあるやつを見つけられたな……」
 そう思って、写真に収めました。前方にある隣家の軒先も見てみると、おや、ここにも「えべっさん」が置いてあります。同じような大きさ、色合いは少し地味です。これも写真に収めて、また1軒先の家の軒先を見ます。ここにもあります。
 「なんだ。たくさんあるじゃないか」
 
えべっさん 
横浦の集落。住宅の軒先に設置された「えべっさん」
 
 次の家、その次の家……ことごとく、軒先には「えべっさん」が置かれていました。この島に3つしかない宿泊施設の1つである「民宿 ○の浦」の門の前にもありました。どうも、この横浦のこのあたりの家々に、特に集中して置かれているようです。「えべっさん」だらけです。
 こいつも、こいつも……と次から次に写真に収めているうちに、それほど持ってきていなかったカメラのフィルムが尽きてしまいました。


 
 ▼御所浦.net 
http://www.goshoura.net/


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