平戸島 Hiradojima
「平戸城下町武家屋敷庭園湯けむりグルメミステリーローズ殺人事件……」
「な、なんじゃい、そりゃ? えらく欲張ったな」
よく晴れた初夏の日の城下町・平戸。同じ車で移動していた地元の園芸業者・M田氏(的山大島出身)、すでに退職して園芸を趣味としているM瀬氏が、突然の私の発言に、あきれたような反応を見せました。
テレビドラマで、私の母親などが好んで見ているサスペンス・ミステリー劇場。その手のものは大体、「女○○シリーズ」「小京都」「湯けむり」「グルメ」「殺人事件」といった言葉を並べて、タイトルが形成されています。新聞のテレビ案内表で3行ほどに収まる文字数で、世の主婦層(=主たる視聴者)が興味をひかれるような内容にするのが、番組コピー制作者の腕の見せどころなのだそうです。主人公たちが著名な観光地を巡りながら、殺人事件を解決していくというストーリー展開を何度もテレビで見てきましたので、最近私は、少し知られた観光地へ行くと、こういう言葉が無意識に口をついて出るようになってきました。
ところで、私がこの周囲203.5kmもある大きな島・平戸で一体何をやっているかというと、それこそ「平戸ミステリーローズツアー」なるものに参加しているのです。さかのぼること3か月近く前、私は出かけた先の小値賀島の民宿で、由緒ある城下町・平戸で武家屋敷庭園の保存活動をやっている年配のご夫婦・O曲夫妻と出会いました。そのとき名刺を交換したのが縁となり、このほど私のところに「平戸お庭めぐり」の案内はがきが送られてきたのでした。それには行けなかった私ですが、しばらくたった連休に、平戸の沖に浮かぶ度島を訪れることにして、その帰りがけにO曲邸の庭を見せてもらおうと思ったのです。ところがその日は、平戸で「バラ会」なる活動をしているご夫妻は、平戸の古くからの地割に400年前から伝わり、現在まで息づいているバラの株の調査を行う予定だということでした。関東のほうから専門家も来るのだといいます。そして、よろしければ……ということで、全くの門外漢で俗物のこの私も、そのバラ探索ツアーに飛び入り参加させてもらうことになったのでした。
由緒ある武家屋敷の庭で、薄いピンクの花を開かせているバラ
ツアーの他の参加者は、O曲夫妻に、バラの専門家・M巫女史、バラの画家・R郷女史。こちらは、O曲夫妻の車で移動しています。次は○○邸、次は○○寺などと、1つ1つ行く先を打ち合わせながら移動しているのですが、こちらの車が1か所飛ばして先に行ってしまったり、道の途中でバラの株を見つけて止まったりもして、小さなハプニングは続出です。ま、しかしめったに体験できないようなツアーをしている感じです。私は、平戸はほぼ初めてと言ってよく、どこをどう移動しているのか、地理感覚はあまりないのですが、由緒ある城下町とそこに暮らす人々の雰囲気は味わえています。バラについての詳しいことが分からないのは、ま、ご愛嬌でしょうが。
もっとも、ツアーに参加してバラを見ているうちに、日本人がよく庭に植えているバラは「イングリッシュローズ」という種類のヨーロッパで改良されたものであること、日本本来のバラにも良いものはあり、北欧などで好まれているのだということなど、初歩の知識を教えてもらいました。M巫女史もR郷女史も、バラのあるところなら世界中どこへでも出かけていっているそうです。
「平戸城下町武家屋敷庭園湯けむりグルメミステリーローズバラバラ殺人事件……」
「え〜……何ですか、それ」
観光スポット「三浦按針の館」の庭でバラの株を見ていたとき、O曲夫人にこの言葉を言ったら、やはり面食らった反応が返ってきました。
「いや、よくテレビでこんなのやっているでしょう。観光地で殺人事件が起こるやつ。シナリオを考えているんですが……」
私が答えます。やはり一般的な観光名所に来てしまうと、ついテレビのサスペンス・ミステリー劇場を連想して、自然とこういう言葉が口をついて出てしまうようです。
テレビのサスペンス・ミステリー劇場はたいがい、クライマックスに犯人ががけに追い詰められて、真相を告白して事件解決となります。このミステリーツアーが最後に訪れた場所は、がけとまでは言えませんが、海沿いの坂を下っていったところにある「中の浦ソテツ群落」でした。自生地の北限といわれる場所だそうで、ここはバラとは関係ありませんでしたが。午前10時ごろに始めたこのツアー、昼食をはさんで、午後4時前に無事にお開きとなりました。
昼食をとったレストランでは、せっかくのツアーということで、7人そろっての記念撮影も行いました。こういうとき、旅には常に携帯している私の三脚が、非常に役に立ちます。
ツアーを共にした皆さんと別れ、平戸を後にして福岡に帰ってから、度島と平戸で撮った写真を、パソコンに取り込みます。ツアーの7人がそろった記念写真を、アップにしてモニターに表示してみました。7人とも、にこやかな表情を浮かべています。ただしかし、このときにふと思ってしまいました。
「テレビのサスペンス・ミステリー劇場では、『殺人事件』の犯人は、だいたいこの中にいるんだよな……」
▼平戸まるごと観光ガイド http://www.city.hirado.nagasaki.jp/sight/