島根の離島記

the Records of Island Visits in Shimane

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知夫里島 Chiburijima

 「出た!」
  道左手の斜面のやぶから、ががさごそという音がしたかと思うと、それはすすいと舗装道路へと進み出てきて、道の真ん中で立ち止まりました。こちらを振り返り、15メートルほど離れたところにいる私のほうを見つめています。
 「あぁ、やっと出合えたか」
 私はうれしくなり、そろそろとそいつのほうへにじり寄りました。ただ、距離が10メートルほどになったあたりで、それはささっと身を翻すと、右手の木立の中へと逃げていってしまいました。私はあわてて駆け寄り、そいつが消えていった木立の辺りに目を凝らしましたが、もうどこにもいません。すばやいです。そして、かなり警戒心が強いようです。
 どうやら季節は本格的に秋に変わりつつある2007年の10月半ば、訪れた島根・隠岐島前の知夫里島。「昼でもタヌキに合える島」であることをうたっている周囲50.8kmのこの島で、中心地である郡の集落を出発してから、島の赤ハゲ山展望台のほうへ3kmほども歩いたとき、記念すべき最初のタヌキが林の中から現れてくれました。さきほど通り過ぎた古海の集落で、私におにぎりや缶ジュース、クリなどをくれた親切な地元のおばあさんから、「いっぱいいるから、いつでも出合えるよ」とは聞いていたのですが、こうして最初の1匹を目にすることができたのには、なかなか感無量です。
 行く手の道にはやがて牛ふんが目立ち始め、さらに進むと前方に目指す赤ハゲ山が見えてきました。すでに、ここら周辺にはたくさんの放牧牛がうろついています。先には、山の斜面にひたすら草地が広がっており、島前一のパノラマが望めるという展望台も近い感じです。そのときでした。
 「お、出た出た」
 再び知夫タヌキ、それも2匹が同時に現れました。山へと上っていく舗装道路を横切り、うち1匹が道の真ん中で止まって、私のほうを見つめています。近づいたら逃げることは分かりましたので、私はその場に止まったまま、持っていた新品のデジタルカメラのシャッターを切り、その姿を収めました。タヌキはこちらを見つめたまま道を横切り、道端のガードレールの根元まで行って、また止まりました。
 「よし、チャンスだ」
 私はカメラのレンズを望遠に付け替えると、三脚を広げてカメラを固定し、300mmの焦点距離でタヌキを狙いました。幸い、逃げられる前に、さらに何枚かカメラに収めることができました。
 
知夫タヌキ 
知夫里島の名物・野生のタヌキ
 
 「よ〜し。OK。うまく行った」
 私は今回、永年使ってきたフィルム一眼レフカメラをデジタル一眼に買い換えたばかりで、その「試し撃ち」を兼ねて、タヌキが名物のこの島までやって来ていたのです。タヌキを無事撮れたことで、目的の半分は果たせたようなものです。あとは気楽に歩きましょう。
 やがてこの知夫里島、及び一緒に隠岐島前を構成する西ノ島、中ノ島が見渡せる赤ハゲ山展望台にたどりつき、一休みします。放牧牛たちを横目にさらに歩を進め、名勝「隠岐知夫の赤壁」を訪れてから、宿泊する民宿のある郡の集落へ向かう道をとりました。この島の道はぐねぐねと曲がりくねっているうえに、かなりアップダウンもあり、なかなか歩きでがあります。しばらく歩くと、またがさごそと左手の斜面から、連れ立った2匹の知夫タヌキが姿を現し、私の目の前を横切っていきました。
 私が歩いてきたこのルートは、島のパンフレットには「ハイキングコース 所要時間5時間」とありました。スタートしたのが午後1時前で、今は午後5時を回ったところ。現在歩いている地点を考え合わせるに、民宿に帰り着くまでには実際、合計5時間ほど歩くことになりそうです。地球温暖化が進んで、今年はまだまだこの季節の気温は高めとはいえ、日が暮れる時間は平年と変わりません。仁夫の集落を過ぎ、大江の集落へと進んでいるあたりで、かなり薄暗くなってきました。そのときです、またがさごそと左手の斜面から音がして、タヌキが1匹、目の前を横切っていきました。
 「あ、またタヌキだ。これで出くわすこと5回。計7匹を見たことになるな。まずまずラッキー」
 しかし、同時にこうも思いました。
 「いいかげんもう暗いし、早く民宿にたどりつかないと、そのうちタヌキに化かされてしまうぞ」
 大江の集落を越えたころには、日はとっぷりと暮れてしまいました。しかし幸い、これ以後はタヌキに出合って化かされることはなく、私は午後6時過ぎ、無事に郡の民宿へと帰りつくことができたのです。
    ◇
 隠岐諸島にはもともと、タヌキは生息しておらず、知夫里島のタヌキは1941年、本土から当時の村長につがいが贈られて、それが脱走して繁殖したものだそうです。島の人口が減り続ける中、タヌキは増殖を続け、私が訪れた時点では、人の約3倍の2000匹が生息するようになっていました。すっかり村おこしの観光名物になったのですが、これだけ増えてしまうと当然、畑の野菜や牛のえさなどを食い荒らす被害も目立つようになり、放置できない情況にもなってきました。というわけで、私が訪れてから2か月足らず後の2007年12月10日から、知夫村は地元の猟友会に委託して、わなによるタヌキ駆除を開始しました。3年間で1000匹までに生息数を減らす予定だそうです。私は5時間あまりの散策の中で7匹のタヌキを見ましたが、今後の期待値は3〜4匹程度になるものと思われます。

 ▼知夫村サイト http://www.chibu.jp/


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